R-magazine-vol.4

S A L U page4 どこへでもなんでも診ます ~フリーランス獣医師がみた世界~ ファッションと野生動物?全く関係なさそうでは あるけれど、お洒落は人間だけのものならず、そし て人間も動物の 1 種として興味を持ってもらえたら 幸いだ。 野生動物の獣医になる。 物心ついた頃から自然や生き物に興味があった。 子どものころテレビ番組「野生の王国」でシマウマ とライオンの命をかけた姿を見て自然の厳しさを 知った。さらに「シートン動物記」を読み、いつか はシートンさんのような動物学者になりたいと思っ た。けれど成長するにつれ世界を旅することや、子 どもに接すること、料理をつくることなど様々な仕 事にも憧れた。 そんな高校生の頃、家の庭で翼の折れた鳥(ツグミ) を見つけた。素人目にも明らかに重傷であることが 分かり、近くの動物病院に連れて行ったが「うちは 犬と猫しか診ないので」と断られた。仕方なく連れ て帰りイチゴを与えると嘴でつついたので安心した が翌朝死んでいた。ツグミは昆虫食でイチゴは食べ ないこと、つついたのは単に攻撃だったことを知っ たのはずいぶん後の話。 野生動物の難しさや命のはかなさ、そして獣医師が 診ない動物がいることを知った。 救えない命がある、ならば私が救おう!獣医師に なろうと決めた瞬間だった。 日々奮闘の30年 獣医師になると決めたものの、獣医学科のある大 学で 6 年間勉強したのち国家試験に合格する必要が あった。進路指導室の先生からは「うちの高校レベ ルでは無理よ」とあっさり言われた。 が、本番に強いようで運良く宮崎大学に合格出来た。 学生時代は都井岬の御崎馬の行動研究を専攻、シート ンさんのように一日中動物の観察をしていた。 国家試験は受験以上に過酷だった、6 年分の膨大な勉 強量をとにかく頭に詰め込んで試験までにそれがこぼ れ落ちないことだけを祈った。 就職先は動物園一択!たくさんの野生動物と、さら に子どもと接することにもあこがれていたから、どち らもいる場所として理想的な職場だった。しかし現実 は厳しく、新米獣医師が単身飛び込むところでは決し てなかった。初日からシマウマが難産に、赤ちゃんの 足が出ているけれど子宮がねじれていて産めなくなっ ていた。近くの牛の先生に応援に来てもらうが母子と もに死んでしまった。ほかにもレッサーパンダの脱走、 カバの闘争、野犬の襲来、感染症や連続死などあまり に想定外の事件ばかり。 30 年目を迎えてもなお、未知のことや初めての経験 はざらだ。つい先日はオスライオンの口の中に腕まで 手を突っ込んだ。ライオンに麻酔をかけたことは何度 もあり、突然覚めて動くことは絶対に無いとわかって いても、正直怖かった。しかし胃までチューブを入れ て薬を流したおかげでその後は元気になった。 フリーランスになって個人の動物も診るようになると 夜中に電話で起こされることも増えた。パニックになっ て泣いている飼い主さんに、まずは落ち着いてもらっ て話を聞くところから始まる…。 人と動物とのはざまに立ち、動物の命、人との関係、 それらをとりまく社会…日々の診療を通じて色々なこ とを体験し考える。 そんな特殊な?エピソードを今後少しずつ紹介してい きたい。 外平動物総合事務所(SALU) 代表/獣医師・学芸員・獣医学博士 外平 友佳理(そとひら ゆかり) 獣医師として到津の森公園(北九州市 小倉北区)をはじめ動物園で 20 年 勤務。その経験と実績を広く社会 や地域に活かすため、2019 年 9 月 にフリーランスとして独立。フット ワークの軽さを活かした往診スタイ ルで、幅広い動物種に対応した訪問 診療の他、幅広いネットワークを 活かした環境保全活動・社会教育 活動・地域支援活動なども精力的 に行っている。 ①

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