S A L U page20 About SALU ; Sotohira Animal and human Life Support Unit 北九州市の動物園「到津の森公園」をはじめ動物園で 20 年勤務。 その経験と実績を広く社会や地域に活かすため 2019 年 9 月にフリーランスとして独立。 現在は、フットワークの軽さを活かし幅広い動物種に対応した訪問診療を行っています。 また「人間が変われば地球は変わる、大切なのはこれからを担う子どもたち」 と環境保全活動・社会教育活動・地域支援活動などにも精力的に行っています。 フリーランス獣医師がみた世界その4 ~辰年にかけて。爬虫類の診療事情 SALU 外平動物総合事務所 外平友佳理 今年は「辰年」。年賀状を見てもやっぱり「龍は爬虫類」。まずはその「ウロコ」(爬虫類の定義は鱗でおおわ れた陸上の脊椎動物)、そして長い体はまさしく「ヘビ」、かぎ爪のある手足は「トカゲ」で、背中のたてがみ は「イグアナ」そのもの。ということで今回は「爬虫類の診療」ネタです。 まず私たち哺乳類と決定的に違うのが「変温動物(外気温動物)」であること。免疫機能は温度に依存してお り1℃違うだけでも大きく変わります。このため彼らが病気になるにもるにも時間がかかり、異変に気づいた 時にはすでに病気が進行している場合も多く、発見も治療も困難というまさに「獣医泣かせ」の生き物です。 先日診たのは「ヒョウモントカゲモドキ」。ペット業界では「レオパードゲッコー」という名前で略して「レ オパ」と呼ばれています。夏の時期に窓辺にいる、あのヤモリに近い仲間です。さて、そのレオパの S ちゃ んですが以前より食欲にムラがあったもののついに全く食べなくなり 1 週間経ったそうです(正常でも数日 食べないこともあります)。見るからにお腹が大きく触ると硬いものがあります。レントゲンを撮ると 2 個の 巨大な卵が確認できました。爬虫類は卵を産まずに吸収する場合もありますが、症状が出ている以上は卵管が ねじれたり破れている可能性が高く外科的に取り出さないと危険です。しかし S ちゃんの体重はわずか 54g、 爬虫類である上にとても小さく麻酔のリスクはさらに高くなります。 それでも飼い主さんが決断してくれたため緊急手術となりました。その前に最後の望みをかけて陣痛促進剤(人 と同じオキシトシンです)を注射して点滴を行い(こちらもヒトと同もの)温かい酸素室に入れて出来るだけ 体調を整えます。やはり産むことは出来ないよう麻酔をかけてお腹を開けるとやはり卵管が破れてすでに卵が お腹の中にこぼれ出ていました。手術中は麻酔のためもともと微弱な心拍はさらに弱くなるため心電図モニ ターなどは役に立ちません。本当に生きているかは麻酔から覚めるまで分からないのです。そのため出来るだ け的確に短時間でやり遂げなければならず最後まで気が抜けません。ちゃんと動けるように覚めるまでは2時 間以上かかりましたが無事にお家に帰すことが出来ました。 やれやれと思ったつかの間、数日と立たないうちに同じような原因で「グリーンイグアナ」を手術することに なりました。こちらは卵管が破れていないものの巨大な卵胞(殻がまだ出来る前の卵)でお腹の臓器を圧迫し ていました…。 こうした卵を産めない状態を「卵塞」、総称して哺乳類と同じように「難産」と呼ばれます。 同じ卵を産む鳥類にも少なくない病気ですが爬虫類の場合は温度だけでなく湿度も含めわずかな環境の変化に も敏感で、ペットでは重要な病気の一つです。 さて手術や緊急時などに大事な点滴(血管確保)ですが、血管は外からは全く見えずとても細いため代わりに 第 2 の血管である「骨髄」から行います。ほとんど同じ速さで効果がありますがコツと経験が必要です。 また手術後も哺乳類では1週間から 10 日くらいで傷もふさがって抜糸ができますが爬虫類の場合は 2 カ月 ほどかかります。 このように爬虫類の治療は気を使うことばかりでまだまだわからないこともたくさんですが、そこに命がある 限り!向きあっていきたいと思います。 ※こうした救えない命をもっと救うために糸島市大入駅の近くに動物診療所を開設することにいたしました。 整備に必要な資金を確保するため 2 月 26 日から READYFOR にてクラウドファンディングを行います。 どうかご支援をいただければ幸いです。 体調不良にはお風呂(温浴)が効果的 龍の名がついているウォータードラゴン 卵塞のイグアナの超音波検査
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